こんにちは。
現役内科医ママの、ゆずです。
インフルエンザ、今年もすごく流行していますね。
2018/2019年のシーズンで最も大きな話題となっているのは、新薬「ゾフルーザ」ではないでしょうか。
テレビなどのマスメディアでは、インフルエンザの特集の中でゾフルーザばかりを取り上げており、患者さんからも
このため、多くの医師がゾフルーザの在庫確保のためたくさん購入し…
1月下旬にはとうとう出荷調整が必要となるほどに、ゾフルーザが出荷されている状況に。
患者さんがゾフルーザを希望される背景として、「ゾフルーザの方が早く治る」という説があるのですが…
それ、本当なんでしょうか?
結論からお伝えしますと、答えはこうです。
それどころか、場合によってはタミフルの方が効く人もいますよ?
意外でしたか?
特に2018/2019年シーズンなら、インフルエンザのお薬はタミフルが一番良いんじゃないかしら。
私だけでなく、感染症の専門家の先生からも同じ意見が出ています。
この記事では、
・ゾフルーザとタミフルの効果は同等
・ゾフルーザは耐性の報告が少なくない
・タミフルと比較したゾフルーザの良い点
について解説し、なぜ私が今シーズンはタミフルをおすすめするのかをお伝えします。
ゾフルーザが気になっているのであれば、ぜひ読んでみて下さい。
なお、この記事は2018年9月のNew England Journal of Medicine(NEJM)で発表された臨床試験データに基づいています。
※NEJMは臨床医学の世界で最も権威ある科学雑誌の1つ
New England Journal of Medicine 2018; 379: 913-923
目次
ゾフルーザが早く効くと勘違いされた理由
「ゾフルーザは早く効くらしい」
この記事を読んでいるあなたは、きっとそんな話を耳にしたのではないでしょうか。
実際、患者さんからは
「早く効くって聞いたから、ゾフルーザを処方してほしい」
という声も聞かれています。
でも、冒頭でお伝えした通り、ゾフルーザとタミフルの効果は引き分け。
なんで「ゾフルーザは早く効く」っていう話が広まったのか…
私には、心当たりがあるので、ちょっと解説しますね。
ゾフルーザはタミフルと比較すると、ウイルス量が早く減る
臨床試験では、ゾフルーザの方がタミフルよりも体内のウイルス量が早く減ることが示されました。
ゾフルーザが早く効くと言われたりする理由は、多分これです。
臨床試験データの図をお見せしますと…
赤い線がゾフルーザのウイルス量。
そして、青い線がタミフルのウイルス量です。
NEJM 2018; 379: 913-923より引用
2日目、3日目のところでは、ゾフルーザの方が統計学的な有意差をもってウイルス量が少ないことが示されました。
でも、4日目からはタミフルと変わりないんですね。
ゾフルーザは確かに、タミフルよりも早くウイルス量を減らします。
おそらく、このデータから
「ゾフルーザは早く効く!!」
と、大きく広まってしまったのだと思います。
違うの…??
では、私が
「ゾフルーザとタミフルは引き分け」
とお伝えした理由を、これから説明しますね。
ゾフルーザとタミフルの効果は同等
あなたは「早く効く」という言葉に、どんなイメージを持っていますか?
多分…
・早く体の辛い症状が軽くなる
というイメージではないかしら。
つまり、「インフルエンザが早く治る」を期待していますよね?
決して「早くウイルス量が減る」ではないはず。
さて、ゾフルーザとタミフルですが…
インフルエンザの辛い諸症状の改善効果については、臨床試験では「同等」という結果が出ました。
つまり、体の辛いのが良くなるスピードは、ゾフルーザとタミフルは引き分けだったということ。
ゾフルーザは、確かにタミフルよりも早くウイルス量を減らす効果があります。
でも、体の症状が良くなるまでにかかる時間は同じです。
となると、学校や仕事へ行けるようになるまでの期間も同じです。
そう。
薬の効果として最も大切な「体の調子が良くなる」に着眼すると、ゾフルーザとタミフルは引き分けだったんですね。
ゾフルーザは耐性の報告が多い
次に注目すべきは、耐性の報告です。
この臨床試験の中で、ゾフルーザを内服した人から耐性ウイルスが報告されました。
その割合は…
・小児で20%以上
です。
大人なら10人に1人、子どもなら5人に1人ですよ?
決して少ない確率ではないですよね。
しかも、耐性変異が検出された人の中には、お熱が長引いてしまった人もいた…というデータもあります。
そう。
せっかくゾフルーザを飲んでも、一定の割合で効かない人が出てくるんです。
タミフル耐性株の検出率は2%程度
ここで気になるのが、タミフル耐性のウイルス…ですよね?
タミフル耐性ウイルスの検出状況
シーズン | ウイルスの型 | タミフル耐性の検出率 |
2017/2018年 | H1N1 | 1.7% |
2016/2017年 | H1N1 | 1.1% |
2015/2016年 | H1N1 | 1.9% |
2014/2015年 | H3N2 | 0.3% |
2013/2014年 | H1N1 | 4.1% |
国立感染症研究所 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスより引用
2013/2014年のシーズンだけは4.1%とちょっと多いですが、あとは軒並み2%未満。
これは、ゾフルーザと比較するとかなり低い検出率だということが分かると思います。
2018/2019年シーズン、日本でもゾフルーザ耐性ウイルスが報告された
2019年1月21日、国立感染症研究所のサーベイランスで、とうとうゾフルーザ耐性株が報告されました。
図がちっちゃくてごめんなさい。
上記は、2019年1月28日発表の耐性株検出情報です。
バロキサビル=ゾフルーザ
オセルタミビル=タミフル
と思って、表をながめてみて下さいね。
これを見ると、
・タミフルではA型(H1N1)インフルエンザウイルスの0.3%に耐性が認められた
ということが分かります。
やはり、圧倒的にゾフルーザの方が耐性率が高いですね。
※2019年2月1日にはゾフルーザ耐性株は10.9%(H3N2)、タミフル0.2%(H1N1)となっています。
と、なるとです。
ゾフルーザを飲んでも、タミフルを飲んでも、インフルエンザが治るまでの期間は同じ。
ただし、ゾフルーザの場合は10人に1人(小児なら5人に1人)は効きが悪くて、お薬飲まなかったのと大して変わりなくなっちゃうかもしれない。
この情報を知っていたら…
あなたなら、ゾフルーザとタミフル、どっちを飲みたいですか?
タミフルと比較して、ゾフルーザの良い点
なんだかゾフルーザのことを、けちょんけちょんにしていると思われたかもしれませんが…
ゾフルーザにも良い点はあります。
ここでは、ゾフルーザの方が良かった3つのことをご紹介しますね。
1回だけ飲めば良いので、飲み忘れない
ゾフルーザは、1回だけ飲めば治療がおしまいというお薬です。
一方タミフルは、1日2回、5日間内服しなければなりません。
5日もあると、うっかり飲み忘れたり、良くなって来たからと自己判断で飲むのをやめてしまう人が出てくるのが、タミフルの欠点です。
(処方されたら、ちゃんと5日間飲みきって下さいね。)
1回で済む、というのは大きなメリットですね。
ウイルス量が早く減るため、周囲への感染が減るかもしれない
ゾフルーザはウイルス量を早く減らす効果があるため、インフルエンザにかかった患者さんが周囲に撒き散らすウイルスの量が少なくなることが期待されています。
これを聞いて一番に思い浮かぶのは、家族内感染ではないかしら。
そしたら、同居していた人がみ〜んな、インフルエンザにかかってしまった…
これ、外来でよく聞く話です。
『もし、家族内で最初に発症した人がゾフルーザで治療されたら、他の家族にうつる確率が減るんじゃないか?』
ということが、期待されるわけですね。
でも、残念ながら、家族内感染が減るかどうかについては報告がなく、本当にそんな効果があるのかどうかはわかっていません。
という場合の対策については、
インフルエンザに家族がかかった!うつさない為の10の対応策を内科医ママが教えます

こちらの記事で解説しましたので、もしもの時には参考にしてみて下さいね。
タミフルより副作用が少なかった
臨床試験データでは、何らかの副作用が出た人の割合は
・タミフル24.8%
・プラセボ24.6%
でした。
ちなみに、プラセボはゾフルーザやタミフルに姿形だけを似せた偽薬のことです。
偽薬だから副作用が出るはずないのですが、患者さんが訴えたことをそのまま副作用としてカウントするため、このような結果が出ます。
プラセボとタミフルが同じくらいなので評価が難しいところもありますが、この結果からは一応、ゾフルーザの方が副作用が少なかったのかな…と。
ただし。
ゾフルーザは1回だけ飲めば済むお薬です。
1回で良いというのは、1回飲むとなが〜く効いているということ。
だから、いざ副作用が出てしまった時に、その分副作用も長引く可能性があります。
また、市販後しばらく経ってから色々な副作用が報告されるケースもありますので…
現時点では、必ずしもゾフルーザの方が副作用が少なくて安心…とは言えないかな〜という所ですね。
一方、タミフルは国内外で治療に使われた経験が豊富なお薬です。
長年に渡るデータが多く蓄積されていますし、赤ちゃんから大人まで、妊婦さんも授乳中のママも使えることが分かっていますよ。
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まとめ
ゾフルーザというインフルエンザの新薬について解説しましたが、いかがでしたか?
最後に…
この記事でお伝えしたことをまとめつつ、2018/2019年シーズンのインフルエンザ治療について、ゆずの私見を述べさせていただきます。
ズバリ!
インフルエンザ治療薬は、今シーズンはタミフルがおすすめです。
その理由は、
・ゾフルーザは臨床試験段階で、成人10%弱、小児20%以上で耐性株の報告あり
・日本での調査でも、ゾフルーザ耐性株が検出されている
…から、です。
実際、感染症の専門家の先生もタミフルを推す先生が多いですし、学会等でも「ゾフルーザは使い所を良く考えないといけないね…」という位置付けに留まっていますよ。
ただ、ゾフルーザにも良いところはあって、
・ウイルス量が早く減ると、周囲への感染が減るかもしれない
・副作用がタミフルより少なかった
というメリットもあります。
もしあなたやあなたの大切な家族がインフルエンザにかかってしまったら…
むやみやたらと「ゾフルーザ下さい!」と希望するのではなく、メリット、デメリットを考え、お薬の処方を受けるかどうかも含めて、治療について先生と相談して下さいね。