こんにちは。
現役内科医ママの、ゆずです。
寒い季節になり、風邪が流行しています。
外来にも風邪症状で受診する患者さんが多くなりました。
風邪の患者さんを診療している時によくある困ったことこととして
あなたも病院で同じことを先生に言ったこと、ありませんか?
今日は外来でよくある風邪の疑問として
・風邪は早めに病院を受診したら早く治るの?
・風邪を引いたら念のために抗生物質をもらった方がいいの?
この2つについて、詳しくお話ししたいと思います。
目次
風邪は早めに受診すれば早く治るの?
最初の良くある疑問は、「風邪は早めに受診すれば早く治るのか」ということ。
週末に旅行があるから、子どもの七五三があるから、明日出かける約束をしているから…
様々な理由で、風邪を引いた患者さんは「早く治したいから来ました」と病院にやって来ます。
それに対する私の回答は
でも、これが風邪の真実です。
風邪を治す薬はない
病気に対して処方するお薬は、大きく分けて2種類あります。1つ目は原因を治療するお薬、2つめは症状を緩和するお薬です。
例えば、細菌感染が原因で引き起こされた肺炎に対しては、細菌を退治するための抗生物質が処方されます。また、高熱には解熱剤が、ひどい痰には去痰剤が処方されるかもしれません。
この場合、原因を治療するお薬が抗生物質、症状を緩和するお薬が解熱剤や去痰剤、となります。
風邪の多くは様々なウイルスが喉や鼻などの気道に感染して、炎症を起こす病気です。原因となるウイルスの数が多く、ほとんどの人では放っておいても1週間もすれば良くなることから、風邪のウイルスに対するお薬は開発されていません。
そう、「風邪を治す薬」はないんですね。
病院に行くと処方されるお薬、それは症状を和らげるお薬の方です。
高熱や全身の怠さ、頭痛などを和らげてくれるのは解熱鎮痛薬。
ひどい鼻水を少し減らしたい場合には、抗ヒスタミン薬が多少効果があるでしょう。
葛根湯などの一部の漢方薬の中にも、人によっては風邪の症状を和らげてくれるものがあります。
多くの場合、医師が処方するのは症状を和らげるお薬です。
風邪の診療では、辛い1週間を少しだけ辛くないように症状を和らげるお薬でお手伝いすることしか、私たちにはできないんです。
早めに受診しても、風邪は早く治らない
「風邪を治す薬」はないのに風邪はいつの間にかよくなります。それは、あなたの免疫力が風邪のウイルスを退治しているからです。
先ほどお話しした症状を和らげるお薬を内服しても、あなたの免疫力はupしません。
免疫力を維持するためには、十分な休息をとって、十分な水分とほどほどの栄養が摂れていることが大切です。
…ということは、もうお分かりですね。
風邪を引いた時、早く治したいからと早めに受診していただいても、医師は風邪を早く治すことはできません。
どんな時に受診すればいいの?
ここまで読んでいただくと、「それじゃあ、風邪を引いた時に病院なんて行っても仕方ないんじゃない?」という声が聞こえてきそう。
極論を言うと、1週間もすれば自然に治る病気なので、多くの人は受診する必要はないと思います。
でも、受診しても全く意味がない…ということではないです。
風邪を引いた時、薬局で購入した『総合感冒薬』をまず内服される方が多いのですが、私は外来で総合感冒薬はほとんど出しません。出すのは患者さんが「自分にはこれが合っているから、ぜひ処方してほしい」と強く希望した時だけ。
なぜかというと、総合感冒薬に入っている色々な成分が、個々の患者さんの症状と合っていないことも多いからです。
例えば、熱や頭痛が辛く、鼻水や咳は大したことがないという場合。
この場合は解熱鎮痛薬だけを処方すれば患者さんは楽になるでしょう。
もし大して辛くもない鼻水や咳に対しても投薬を行えば、お薬の副作用でやたらと眠くなったり、口が渇いたりして、かえって不快な症状が増えてしまう可能性があります。
その人の症状にあったお薬だけを、必要最小限で処方することが大切なんですね。
最近は、病院で風邪の時に処方されるお薬のいくつかは、普通に薬局でも購入することができる様になりました。薬剤師さんと相談しながら自分の症状に合う薬を選ぶ力があれば、病院で薬をもらわなければならない理由はありません。
病院にはたくさんの体調の悪い方が訪れるので、インフルエンザの人が座っている隣で長時間待つかもしれない、10分で薬局で薬を買う方が良さそうかな…と思える位の症状であれば『良くしたい症状だけにピンポイントで効く薬』に絞ることをポイントに、お薬を選んでみるのもおすすめですよ。
ただし…
・症状がひどいから普通の風邪ではないのかも…と思う場合
・食事や水分が十分に摂れない場合
・扁桃腺が腫れている場合
・どのお薬が必要なのか薬局で相談してもわからない場合
・持病やお薬のアレルギーがある場合
このような場合には、受診する方が安心ですね。
また、小さなお子さんの場合には体重により量の調整が必要だったりしますので、薬局で購入されるよりは受診して処方を受けることをお勧めします。
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風邪の時、念のために抗生物質をもらった方がいい?
2つ目のよくある疑問は、「風邪を引いたら念のため抗生物質をもらった方が良いのか?」ということ。
これについては、
普通の風邪に抗生物質を処方することは世界的に問題になっており、国ぐるみで医師・患者さんの両方に啓蒙活動をして、抗生物質の処方量削減に努めている国も複数あるほどです。
ここではその理由を、お伝えしますね。
風邪に抗生物質はほとんど効かない
※ここでの説明は、わかりやすくするために微生物学などの専門的な用語の使い方とは異なる部分があります。
先ほど説明した通り、ほとんどの風邪の原因はウイルスです。抗生物質は、細菌を退治するお薬なので、ウイルスには効きません。
黄色い濃い鼻水が出ているときは、多少細菌が悪さをしている可能性もありますが、抗生物質なしでも改善するケースが大多数でしょう。抗生物質が風邪の治癒を早めてくれるという証拠はほとんど報告がないんです。
一方で、抗生物質には副作用があります。
内服した抗生物質は、腸の中にいる大切な腸内細菌も死なせてしまいます。よく抗生物質を飲むとお腹が痛くなったり、下痢をしたりするのはそのためです。
また、皮膚にボツボツが出現したり、アレルギーを起こす人も中にはいます。
腸内細菌は赤ちゃんの頃が一番種類が豊富で、その後はだんだん減ってしまうといわれています。近年、腸内細菌の研究が盛んに行われるようになり、そのバランスの崩れが潰瘍性大腸炎など、アレルギーや自己免疫が関わる様々な病気に影響を与えていることも報告されるようになりました。
不必要な抗生物質の内服は、内服した時に起こる副作用だけでなく、腸内細菌のバランスを崩す原因になると考えられ、長期的な視点で考えても慎むべきことだと考えられます。
なぜ「念のため抗生物質」が処方されるの?
では、なぜ念のための抗生物質が処方されているのでしょうか。
その多くは、「風邪に引き続いて起こる細菌性の肺炎を予防するため」または「風邪と区別がつきにくい抗生物質の必要な病気を心配するため」です。
風邪に引き続いて起こる細菌性の肺炎を予防するため
まず最初の「風邪に引き続いて起こる細菌性の肺炎を予防するため」について。
抗生物質が肺炎を予防してくれると思っている人は、患者さんにも、医師にも(!)結構います。
実は、抗生物質を処方することで、風邪に引き続いて起こる細菌感染を予防するという証拠はほとんどありません。風邪をこじらせて起きた肺炎による入院を1人減らすためには、12000人の人に抗生物質を投与する必要がある、というデータもあるくらいです。
1人の肺炎を予防するために11999人に無駄な抗生物質を処方するなんてメリットが少ないことだと、おわかりいただけたでしょうか。
風邪と区別がつきにくい抗生物質の必要な病気を心配するため
次に、「風邪と区別がつきにくい抗生物質の必要な病気を心配するため」について。
確かに、患者さんはもちろんですが、風邪の診療に長けていない医師にとっても、風邪なのか、風邪ではないのかがわかりにくい場合もあるかもしれませんね。
例えば、風邪〜気管支炎〜肺炎の境目ははっきりと見えるものではなく、曖昧です。
なのに、風邪には抗生物質はいらないけれど、肺炎には必要。
風邪の様だけれど、肺炎の可能性もあるから…と、患者さんから希望があったり、医師自身が心配したりして、”念のため”抗生物質が処方されるケースは後を絶ちません。
こうしたケースの全てが悪いとは言い切れません。
例えば、非常に細菌感染を起こしやすい持病のある方や、ひとたび感染を起こすと重篤な状態になる様な持病がある方では、”念のため”の抗生物質が必要なケースもあるでしょう。
ですが、むやみやたらと、誰にでも抗生物質を念のため処方することは、副作用のリスクを考えれば慎む方がよいでしょう。
「念のため、抗生物質も出してください」と言っていませんか?
患者さんに
『出すつもりはなかったけれど、患者さんにお願いされたから抗生物質を処方する』という医師は少なくないので、無駄な処方を受けないためには患者さんの方からも「風邪だけど念のために抗生物質を下さい」とお願いするのは控えた方が賢明です。
抗生物質がもらえずにもし肺炎になっちゃったら!?
肺炎を発症したら抗生物質の治療を開始すればOKです。
様子を見る内に、風邪なのか、抗生物質の治療が必要な病気なのかは、次第にはっきりしてきます。
意外に思うかもしれませんが、最初の診断って、案外間違っているものです。
症状が軽いうちは典型的な症状がみられないために診断をつけるのは難しく、初期の診断の2〜3割は間違っていたなんて報告もあるんですよ。
だから様子を見ることって、実はとても大切なんですね。
『慎重に様子を見て、「肺炎だ!」となったらすぐに治療を開始する。』
この様に、時間を味方につけて治療を行うことが最善の策だと思います。
”念のため”ではない抗生物質はしっかり飲もう
患者さんが「風邪です」といって病院に来る場合、本当に風邪だなと思う場合もありますが、
患者さんが風邪だと思っても、医師が風邪ではなくはっきり抗生物質が必要な病気だと判断して抗生物質を処方するケースは結構たくさんあるということです。
なので、
誤解をしてほしくないのですが、抗生物質を使うことが全て悪いわけではありません。
必要のないときに抗生物質を使うのはよくありませんが、細菌感染を起こしている時に使えば菌を退治して病気を治してくれる、よい薬でもあるんです。
道具は使い様、ということですね。
先日も、イギリスに住む授乳中のママが、医師が何度も勧めた抗生物質を断り、赤ちゃんを残して髄膜炎で亡くなったという悲しいニュースもありました。
『必要な時に使う』これが大切なので、むやみに抗生物質を拒絶することはしない様にして下さい。
子どもが粉薬を嫌がって困っている…そんなあなたに!
子どもが粉薬を嫌がってしまうこと、結構よくありますよね。
実は、粉薬には
・混ぜるとおいしくなる食べもの
・混ぜると飲みにくくなる食べもの
があるんです!
お子さんが薬を嫌がってしまわぬ様に、はじめから良い組み合わせて飲ませてみるといいですよ。
詳しくは、
粉薬を嫌がるお子さんに!粉薬をおいしく飲むためのOK・NG食材と飲ませ方を内科医ママが解説します。

こちらの記事にまとめましたので、参考になさって下さいね。
まとめに
今日は、よくある風邪の疑問2つについてお答えしました。
・総合感冒薬よりは症状に合わせたお薬に絞って内服するとよい
・”念のために抗生物質”はデメリットの方が大きい
・必要な抗生物質はしっかり服用しましょう
あなたやあなたの家族が風邪にかかった時に、参考にしていただければ幸いです。