こんにちは。
現役内科医ママの、ゆずです。
寒い冬、風邪をひくことも多くなってきました。
病院を受診すると、処方されることがある抗生物質。
実は、現在安易な抗生物質の処方が世界的に問題になっています。
それは、薬剤耐性菌を生み出してしまうからです。
抗生物質を適切に使用するためには
・医師側の正しい知識
・患者さん側の正しい知識
この両方が欠かせません。
患者さんに強く希望されると、断りきれない先生は多いですからね。
2017年は厚生労働省からも抗生物質の適正使用に関するガイドラインも発表され、今後はますます医師・患者さん双方の協力による抗生物質の無駄な投与防止が推進されていくものと考えられます。
前置きが長くなってしまいましたが…
抗生物質の内服により下痢が引き起こされることをご存知でしょうか?
今日は抗生物質による副作用の一つ、『下痢』に焦点を当てて、詳しく解説します。
目次
抗生物質の副作用に腹痛・下痢があることを知っていますか?
先日外来をしていたら、若い女性が診察室に入ってきました。
食欲はあるので普通に食べられるのですが、食べるとお腹が少し痛くなって。
水みたいではないですが、1日3、4回下痢もしています。
風邪に抗生物質は効かないのですが、「念のため」と処方してしまう先生が少なくないんですよね。
風邪と抗生物質のお話は、
【風邪は早く受診すれば早く治る!?抗生物質は必要?よくある風邪の疑問を内科医ママが解説します。】

こちらの記事でも詳しく解説していますので、参考になさってくださいね。
抗生物質を飲むと、大人も子どもも下痢になる
抗生物質とは、主に細菌を退治するお薬です。
抗生物質は「体に良い菌」と「体に悪さをしている菌」を区別することなく退治します。
すると、腸内の細菌のバランスが崩れ、下痢の症状を引き起こします。
大人でも、子どもでも、抗生物質を内服すると同じ様に下痢の副作用が出る可能性があるんですね。
腸内細菌の崩れは、下痢が治った後も長期に渡り影響する
腸内細菌の種類は、赤ちゃんの頃が一番多く、大人になるにつれて徐々に種類が減ってしまうことが報告されています。
近年、腸内細菌の研究が盛んに行われるようになり、そのバランスの崩れが潰瘍性大腸炎など、アレルギーや自己免疫が関わる様々な病気に影響を与えていることも報告されるようになりました。
ある種の病気では、健康な人の便を大腸に移植する治療法まであるほどです。
抗生物質は細菌感染症を治療するためには欠かせない重要なお薬ですが、
・腹痛や下痢を起こす原因になる
・腸内細菌の種類を減らし、病気の発症の原因となる可能性がある
こんなデメリットがあります。
不要な場面で飲んでしまうことのない様、デメリットについてもぜひ知っておいて下さい。
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腹痛・下痢の副作用が起こりやすい抗生物質は何?
抗生物質は、基本的にどの薬でも腹痛や下痢が起こると考えて良いです。
ここでは、特にお子さんに処方されることが多い抗生物質について、下痢になりやすいお薬をご紹介していきます。
クラバモックス
クラバモックスは、ペニシリン系に分類される抗生物質です。
広い範囲の細菌を退治する力があり、扁桃炎や気管支炎などの喉の感染症、膀胱炎などの尿路感染症にも処方されますが、元々は薬剤耐性肺炎球菌による難治性の子どもの中耳炎を治療するために承認されたお薬です。
臨床試験では下痢・軟便となったお子さんは35%以上であり、飲めば下痢をすると思った方が良さそうです。
マクロライド系抗生物質全般
マクロライド系抗生物質は、下痢だけでなく、腹痛も起こりやすい抗生物質です。
具体的なお薬の名前としては、
・クラリス(クラリスロマイシン)
・エリスロシン(エリスロマイシン)
・ジスロマック(アジスロマイシン)
などが代表的です。
大人でもクラリス、ジスロマックは処方される機会が多いと思います。
大人用に処方される「ジスロマックSR」という1回飲みきりタイプのものは、特に腹痛が起こりやすいので内服時には注意が必要です。
オラペネム
肺炎、中耳炎、副鼻腔炎に適応のあるカルバペネム系抗生物質です。非常に広い範囲の菌を退治する力があるため、むやみに処方されてはいけないお薬の一つです。
クラバモックスと同様、難治性の中耳炎に処方される機会が多いと思います。
下痢や軟便は、3歳未満のお子さんで約35%、3歳以上では13%と報告され、3歳未満のお子さんでは特に注意が必要です。
オゼックス
オゼックスは、小児には珍しいニューキノロン系のお薬です。
クラバモックスやオラペネムと同様、難治性の中耳炎や肺炎に処方されることが多く、臨床試験では下痢が5.5%、腹痛が2%程度の報告です。
参考までに、大人の場合によく処方されるニューキノロン系抗生物質はクラビット(ジェネリックの場合はレボフロキサシン)で、同様に下痢の副作用があります。
抗生物質を内服後、下痢になるのはいつ?
抗生物質を飲み始めてから下痢が起こるまでは、人によって個人差があります。
早い方では内服した当日から下痢が起こりますが、1〜2週間後に起こる場合もあります。
抗生物質をもう飲んでいないから大丈夫、というわけではないんですね。
今抗生物質を飲んでいなくても、最近飲んでいたという場合は、その下痢は抗生物質の副作用である可能性があります。
もし下痢症状で病院を受診するときには、抗生物質を内服していた事があればそれを先生に伝え忘れないようにしましょう。
抗生物質による下痢の対処方法3つとは?
抗生物質による下痢の対処方法には
・整腸剤を内服する
・下痢がひどい時は水分摂取を心がけ、症状に応じて受診を
・下痢が落ち着いていれば、お腹に優しい食事をとる
この3つがあります。
では、一つずつ解説していきますね。
1. 整腸剤を内服する
整腸剤は、その字のごとく「腸を整えるお薬」です。
例えば、”ビフィズス菌”なんていうときっと馴染みがありますよね。
整腸剤は病院でも処方を受けることができますが、大人用、小児用(赤ちゃん用も含む)ともに、薬局などで市販されているお薬も利用できます。
・症状は軟便程度で体調はそれほど悪くない
・もう一度受診する時間がない
こんな場合は、市販のお薬を利用して様子を見ても良いでしょう。
病院で処方されるお薬の名前としては
・ラックビー
・ビオスリー
・ビオフェルミン(ビオフェルミンR)
・ミヤBM
などが代表的です。
2. 下痢がひどい時は水分摂取、症状に応じて受診も考慮
下痢が比較的ひどい場合には、ちゃんとした食事を摂ろうとする必要はありません。
水分をしっかり摂るようにしていれば、食事を1、2食抜いたり、おかゆや柔らかく煮たうどんなどを少量摂るに留めておいても問題ありません。
下痢の回数に応じて、少量の水分をこまめに飲むように心がけましょう。
少し薄めたスポーツドリンクや、経口補水液(OS-1など)、薄味のお吸い物の上澄みなどがお腹に優しいです。
冷たすぎるものを避け、常温〜少し温かいものにするとさらに良いでしょう。
・1日10回以上の下痢
・飲み始めてすぐのひどい下痢
・水様の下痢が続く
・発熱を伴っている
こんな時には病院を受診する事を考えましょう。
飲み始めて間もない場合は、お薬を変更することも考えられます。
抗生物質投与後に起こるお腹の不調は、多くが軽いものです。
ですが、「偽膜性腸炎」という、クロストリジウムディフィシルという菌が腸の中で増えてしまって引き起こされる細菌性の腸炎が起こるケースもあります。
偽膜性腸炎は患者さんの体力や重症度によっては致命的になることも。
下痢をしていても元気で機嫌が良い場合は様子を見ても良いですが、「元気がない」と感じる時は受診する様にしましょう。
3. お腹に優しい食事を摂る
下痢や軟便の症状がある時の食事は、お腹に優しいものが適しています。
抗生物質による下痢の場合、吐き気などはなく、食欲は普通にある場合が多いです。
そうなると…みなさん結構普通のお食事を摂ってしまうんですね。
整腸剤の内服とともに、食事はお腹に優しいものを。
・柔らかいおかゆやうどんなどは◯
・脂っこいものを避ける
・辛いものを避ける
・いつもより控えめな量にして、食べ過ぎない様にする
こんな点に気をつけていただければと思います。
まとめに
今日は抗生物質の副作用として起こる『下痢』について詳しくお話ししました。
・大人でも子どもでも、抗生物質を飲むと下痢になる
・飲み始めた日〜2週間後位と下痢の起こる時期は様々
・病院を受診する際には抗生物質を内服した事を医師に伝える
・整腸剤、水分摂取、お腹に優しい食事が対処のポイント
抗生物質の内服をきっかけに下痢が起きた場合、この記事が慌てずに対処するためのお手伝いになれば幸いです。